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【大企業×新規事業の難しさ③】「管理」がことを壊す
今回取り上げるテーマは、「管理」についてです。
大きな企業になればなるほど、上司、経営陣、株主と、必ず説明責任があります。
そのため、予め活動の内容を計画し、意思決定し、その方向性に沿って活動をすることが推奨されます。
これは、既にビジネスモデルが確立された既存事業を、効率的かつ予見可能な形で運用できるという強みがあります。
しかし、この「計画と承認に基づいてビジネスは管理可能である」という見えないドグマを内包する働き方が、新規事業を検討する際には足かせになるケースを、我々はたびたび見てきました。
そこでおきるトラブルは、大きく分けて2つです。
1つ目は、スピード感が著しく落ちることです。
有態に言えば、報告のための資料を作る、社内調整のためのコミュニケーションに時間を使う、といった行為はそもそも事業の価値とは直接関係しません。
また、新規事業の検討にあたっては、短いスパンでの仮説検証を繰り返しながら徐々にビジネスの輪郭を描き出し、その解像度と確度を高めていくことが必要です。そこでは、検証から得られた示唆を踏まえて次のアクションを修正し、速やかに行動に移すことが求められています。
しかしここで、次の行動を「修正」することについて、上役への説明や意思決定が必要となると、必ずスピードは落ちます。同時に、計画を変更することへの抵抗が生まれ、検討のダイナミズムが損なわれてしまいます。
2つ目は、上司・経営層が納得できるビジネスになっていくことです。
実際のところ、新規事業が顧客に受け入れられるかどうかを最終的に決めるのは、市場であり顧客です。
上司や経営層は豊富な知識や経験から様々なアドバイスをすることはできるかもしれませんが、(彼ら自身が情熱を持って、現場を見て、一番考えているケースを除いて)やはり、そのビジネスについて一番真剣に考え、一番顧客の声に近い人が、最も良い「肌感覚」を持っていることが多いです。
しかしその「これならいけそう」という感覚は、必ずしもロジカルに説明できるとは限りませんし、上役の人々が同じ感覚を共有しているわけでもありません。
すると、レポートラインを上げていくたびに、アイディアは資料に落とし込める範囲のものになり、上役の感性に基づくレビューを受け、疑念を呈され、修正を迫られ、やがて、もともとの現場で感じられた面白さ・個性・輝きがない「ありきたり」なアイディアになってしまいます。
その様は、ゴツゴツした岩が川を流れくだる中で、様々な石にぶつかり、磨かれているようで、その実はカドが削り落とされてなんの変哲もない小石になり果てるようなものです。
だからといって、我々は、「管理は不要だ」ということを言っているのではありません。
説明責任が求められる大企業では、ある程度の管理が必要になるのは当然のこと。
また、現場の独りよがりなアイディアや進め方は放置すべきではありません。
そこで重要なのが、上役の振る舞い方と、会社としてのガバナンスの在り方、です。
本稿では、上役の振る舞い方について我々の考えを述べます。
(ガバナンスの在り方も重要テーマであり、日を改めて論じます)
最も効果的な上役の振る舞い方は、管理型マネジメントから牽引型リーダーに変わることです。
率直に言えば、ここでいう上役と呼ばれる人が、そのビジネスのことを誰よりも考え、チームメンバーを差配し、行動すること。
誰よりも考え、コミットし、意思決定をしてくれる”リーダー”的な人が上にいるチームは、本当に強いです。
そうはいっても、立場が上がれば1つの事業にかかりっきりにはなれない事情もあるでしょう。
本腰を入れてリーダーシップを発揮することができないのであれば、せめて意識の在り方を変えるだけでも、効果があります。
まずは、管理者たる上役が、自分よりも現場の方が今のビジネスを考えている・知っている可能性を認めること。
「管理する」という極論すればPJのブレーキになるようなスタンスを、会社ガバナンス的に許される範囲で緩め、
自身の見識と責任によって「サポートする」という立場で会議などに臨んでもらうことです。
こんなことを言うと「わかっている」と言われそうですが、実際にはサポートしているつもりで、実態は資料のレビューに終始してしまう会議、が多数あります。
Go/No-Goを判断する管理者としての目と、PJの推進をチームの一員として責任を持って支援するサポーターの動きを、バランス良く持つことが大変に重要です。
このような課題意識を踏まえ、我々は、レポートラインに連なる方々とのコミュニケーションを大事にし、一緒に考える仲間として巻き込んでいくことが、円滑な支援を実現するための第一歩と考えています。