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明瞭なコンセプトは資料の厚みに勝る①

新しい事業を進めるにあたり、その事業を説明する資料が必要なシーンは必ずあります。
その会社や置かれた状況によって、ピッチ資料だったり、事業計画書であったり、はたまた社内稟議の資料であったり、その形式は様々ですが、基本的には「このビジネスが上手くいくはずだ!」ということをアピールする資料になるはずです。

ところが、弊社におけるこれまでの経験を踏まえると、
「なぜこのビジネスの筋がいいのか?」を長々と説明しようとしているうちは、事業がなかなか前に進みません。
それはおそらく、「このビジネスが上手くいく」と考える本質的な理由を言語化できていないからであり、
様々な傍証を重ねて「上手くいく」ことを必死で説得しないといけない状況になっているからだと思われます。
そして、事業そのものの話よりも、様々な定量調査の結果・有識者の声などの傍証ばかりが積みあがっていってしまいます。

しかし、そのビジネスが上手くいくかどうかは、そのような様々な傍証の積み重ねによって明確になるのではありません。
そのビジネス自体の中に答えがあり、説明はあくまでその言語化に過ぎないのです。
いわば、新しく作ろうとしている事業そのものが明確にならない限り、「なぜうまくいくのか?」という説明自体が成り立たない。この順番を履き違えてはいけません。

事業を明確にするには、2つの観点があります。
What=どんな事業なのか?(誰のどんな課題をどう解決するのか?/そこでどうやって利益を上げるのか?)
How=その事業をどのように実現するのか?(その手段が現実的か?/効果的か?)

経験則的には、これらで表現される事業のコンセプトが明瞭、かつ、シンプルであればあるほど良いコンセプトだと言えます。
ただし、ここでいうシンプルさとは、「単純でよい」というのではなく、シンプルに表現できるまで磨き込まれている、ということです。
いろいろな背景・議論があるかもしれないけど、「このビジネスを一言で言うと…」と言い切れること。
その事業の軸になる部分に、言い切る力強さと、立ち上る魅力があれば、細かい傍証はなくても「ビジネスとして面白そうだ」と感じられる。
そこまでビジネス自体を磨き込むことがまずもって大事です。

我々が考えるべきことは、「なにを?」「どうやって?」であり、
それがクリアになっていれば「なぜいい事業なのか?」は自明となるはずです。
理由は、そのあとで説明すれば十分。
理由の分量は本質的には必要ないものであり、理由の説明が多い事業のコンセプトには何かしら「説明しないとわかってもらえないような無理がある」と言えます。

次回コラムでは、この“コンセプト”を考えるポイントを、もう少し深掘っていきたいと思います。




※なお、実はこういったポイントは、2つの理由から、スタートアップの方が得意であるような気がします。
1つには、短時間でのピッチを繰り返すことで、自社のビジネスをシンプルかつ魅力的に表現することに長けていること。
そして2つめに、そもそも新しいことに取り組むスタートアップは「確実な傍証には頼れない」ことを前提にしている一方で、既存事業を抱えた大企業では「客観的な数字における説得」を求める企業文化が残りがちであること。

この2つめのポイントは実は重要です。
なぜなら、企業側が「なぜ上手くいくと思うのか、説明せよ」という態度であるほど、スタッフはそれに対応しようとして「なぜ」ばかりを追求してしまうからです。
なぜを突き詰めるより、どれだけ魅力的で現実的で面白いと感じられる事業を持ってきたかを評価し、「この事業を一緒に最後までやってみたいかどうか」を共に考えるような態度が会社側にも求められるのではないかと思います。