サムネイル: 明瞭なコンセプトは資料の厚みに勝る

  • Insight

明瞭なコンセプトは資料の厚みに勝る

それでは一歩踏み込んで、よいコンセプトとはどのようなものかを考えてみたいと思います。

前回も書いた通り、コンセプト自体は、「シンプルに言い切れて、それ自体から魅力が立ちのぼる」ものが理想だと考えます。
シンプルとはわかりやすく言えば、曖昧な形容詞・留保・付帯条件が少なく、主語と述語が近接していて、結論を断言できているもの、です。
そしてその中で、「何を目指して」「どのような方法で実現するのか」がクリアに語られています。
力強いコンセプトがあれば、誰もがその世界観を同じように理解できる。
そして、ビジネスを作り上げていくにあたり、様々な壁にぶつかり議論が分かれたようなときにも、そのコンセプト自体が事業の羅針盤となり、一貫した議論を支えてくれます。

「誰でも痩せられるジム」
「専属トレーナーが常駐して誰でも痩身指導を受けられるジム」
「●●理論の認定トレーナーが1対1の個人指導を行い、確実に痩せるまでサポートするジム」
誰でも同じように理解のできるほど、解像度を高く、whatとhowを言いきれることが重要だと思います。

しかしこれを磨き上げるには、きちんと事業仮説を考える(そして検証する)作業が必要であると考えます。
我々は事業仮説を考える際には、3つの観点を特に意識しています。
1.カスタマーエクスペリエンス(CX)の観点=誰の何の課題に対して何の価値を実現する?
2.ビジネスの観点=どのように利益創出を行おうとしている?
3.テクノロジーの観点=競争優位に繋がるテクノロジーの採用・開発ができている?

そしてこの3つの観点に照らしながら、「直感的」アプローチと「論理的」アプローチを適切に組み合わせていくことが大事です。
これは、人間の直感はどこまで正しいのか?という問題とも関係するかと思いますが(そして私は割と興味があるテーマなのですが)ここでは現実的に、ビジネスの現場でどう活用するかを考えましょう。

直感的アプローチでは、論理的アプローチでは届かないアイディアの飛躍にたどり着く可能性があります。
しかし、「思い付き」は往々にして現実的でなかったりするもので、そこに論理的なアプローチでの可能性検証や価値検証が欠かせません。
一方で、論理的なアプローチが必ずしも現実的かというと、そうとも限りません。
細い論理の道筋をずっとたどっていくと、あたかも正しい議論を積み重ねているようで、実は事業としては全然現実的ではない(実現可能性がないとか、コストがかかりすぎるとか…)ということもあります。
そういった木を見て森を見ず、になりがちな議論に対して、「本当にそういうビジネスでいいんだっけ?」という素朴でフラットな疑問を投げかけてみることは実は重要だと言えます。

こうした「直感」と「論理」の往来を丁寧にやっていくことが、とても重要です。

特に最近は、カスタマーエクスペリエンスの議論において、直感的アプローチが特に大事だと感じます。
というのも、顧客理解の取り組みと称してアンケートなどの定量調査がよく行われますが、実はこのような調査は顧客理解の本質に迫っていないケースがあるからです。
そもそもアンケート調査はアンケートの作り手の意図が介在しやすいものであり、「顧客をありのままに理解する」という性質のものではありません。そして、n件のアンケート結果は既に記号化されたデータであって、顧客1人1人(n=1)の生身の課題に迫ったものではありません。
特にビジネスのコンセプトを考えている段階では、生身の人間が持つ生々しい課題を自身の中にもインストールして「どうありたいか」を考えることの方が、はるかに有効で本質的だと思えることが多いです。
コンセプトが煮え切る前に、安易にアンケートなどで数字の多い方を選ぶような「逃げ」はやめるべきです。

こうして、論理的な強さだけでなく、人間的な感覚にも支えられたコンセプトをきちんと練り上げることが大事であると言えるでしょう。