サムネイル: クイックに事業アイディアを内省レビューする1つの問い

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クイックに事業アイディアを内省レビューする1つの問い

新規事業の検討、特にその初期的なアイディアを考える上で私が大事にしている問いの1つが、「なぜ誰もこの事業をやっていないのか?」という問いです。
 
実際、例えばブレストなどをしながら面白いアイディアがでてきて、これならできそうだ、面白そうだ!というアイディアが出てきたとします。
よし、じゃあMVP作って顧客に当ててみよう、その界隈に詳しい人や顧客にインタビューしてみよう、そういったアプローチも全然否定はしません。考えることも大事ではあるが、そのために前進のエネルギーを失ってしまうようなことではいけないと思うからです。
しかし、MVPをつくるにしても、インタビューをするにしても、多少の時間とお金がかかります。特に時間は、一度かけてしまったら取り戻すことができません。大企業でよくある、時間的な期限のあるプロジェクトにおいては特に、時間の使い方も大事です。

そこで大事なのが、勢いを止めない程度にクイックに案件の良し悪しを考えることであり、そのよすがとなるのが、先述の問いになるのです。

正直に言って、(起業経験なのか、業界への造詣なのか、センスなのか、考え抜く熱意なのか、その背景はさておき)余程特異な人でなければ、突然にオリジナリティがあって儲かるアイディアが浮かぶということは滅多にないと思います。それはこれを書いている私も同じことです。
裏を返せば、我々が会議のブレストの中で思いつくようなアイディアくらいであれば、誰かしらが既に思いついたり、実行している可能性があるのではないかと思います。にも拘わらず、それが新しいアイディアのように感じられるということは、どういうことなのでしょうか。

この答えにはいくつかのパターンが考えられます。

まずは、ただ知らないだけで、既に世の中には同じようなビジネスがあるというパターン。このケースは割と多いと感じます。しかし、悲観的になる必要はありません。先行事例に学びながら、例えば「パクるだけでこれくらいは儲かるかも」「うちのこのアセット使えばこれくらいの市場を取れるかも」とある程度イメージと安心感をもって追いかけることもできるかもしれませんし、逆に「こうやればこの競合は食えるかもしれない」という追いかける側のアドバンテージを考える方向に議論を伸ばしていくこともできます。

次に、様々なプレイヤーが取り組んでいたものの、上手くいかなかったパターン。このパターンはもう少し細分化できます。
まずは、思ったよりも顧客がいなかった、市場が小さかったケース。この場合、当該アイディアの方向性を伸ばしていくのは難しいことが多いです。但し、当時の顧客には受容性が低かったけど、顧客の方が変化して今なら受け入れられる、というケースはあります。代表的なのはオンラインのビジネスツールだと思います。このコロナで生じたビジネスパーソンのマインドセットや働き方の変化により、過去には受容されにくかったサービスが受け入れられるようになった例は枚挙にいとまがありません。
或いは、マーケティングや体験の観点で、過去の失敗事例の問題点を克服できるのならば、チャンスがあるかもしれません。または、サービスを受ける顧客からはマネタイズせず、広告など第三者からの収益でマネタイズする、といったスキーム面の工夫も考えられるでしょう。
一方、技術的な理由によって十分なサービスの提供ができなかったケースもあります。このケースは非常にわかりやすく、実現上のボトルネックとなっている技術的な課題をイノベーションでクリアできれば、過去の失敗事例を克服して新しいサービスとして提供できるようになります。例えば社会全体で見ると、5Gの社会実装がイノベーションの起爆剤になる可能性があると言われているのは、その特徴としての低遅延や同時接続性が、「これまでやりたくてもできなかった」ことを実現するからだと言えます。また、企業目線で見ると、今まで「できなかった理由」となっている技術的課題を自社の技術で突破できれば、そこには新しいビジネスの種があると言えます。
同様のケースとして、法規制によってできなかったものが法改正や特区などで可能になった、ということもあり得ます。
そしてもう一つ、オペレーションコストがかかりすぎて採算性が合わなかった、という場合もあります。この場合においても、自社のアセットの活用や様々な技術の活用によってサービス提供コストを十分にコントロールできるのか?過去の他社失敗事例との違いはどこにあるのか?を考えることが重要です。
要するに、上手くいかなかった事例を、今・自社で実施したら上手くいくように変えられるのか?という問いに変換して考えることがポイントになると思います。

そして最後に、そのアイディア自体が本当に新しい、誰もやったことがないものだった、というケース。あるいは、考えている人はいたけど誰も「本気で」取り組んでいないので世の中に出ていないというケース。
このケースであれば、もうこの問いはすっ飛ばして、次の段階に行くしかありません。粛々と、アイディアの深掘り検証、インタビューやPoCといった活動を進めたほうが良いと思います。ただもし、もう一段だけ思索的に深掘りするなら「なぜ誰もこれを思いつかなかったのか?」という点に想いを巡らせることで得られる示唆もあると思います。

こうすることで、特に会議の場でわざわざ議論しなくても、自分の脳内で完結する形で、事業アイディアの良し悪しと、今後考えるべきポイントをクイックに考えることができるのではないかと考えています。