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【大企業×新規事業の難しさ④】「失敗の先に未来を見る」経営は正しいシグナルを出そう
大企業で働く人々のモチベーションは様々ですが、わかりやすいポイントの1つに出世(昇進)と給与(昇給)があると言えましょう。
企業の目線で言えば、「●●をしたら昇進(昇給)するよ」というシグナルを発信することで社員の行動パターンをコントロールすることができると言えます。
私たちが、様々な企業とのお付き合いの中で感じる難しさの1つが、まさにこの「評価シグナルによる行動のコントロール」です。
基本的に、大企業の場合、主たる事業というのは、
オペレーションが確立していて、ノウハウも蓄積しており、予見可能性が高いものです。
言い換えれば、こうすれば成功する、こうすれば失敗する、といったことがある程度見えているので、
計画をきちんと立て、会社として意思決定し、計画通りに動いて予定された成果を出すことが、基本の行動パターンとなります。
このような組織においては、「これくらいはできるだろう」という期待と、それに届いたかどうかに基づく評価(届かない=失敗=評価が下がる)が妥当性を持ちます。
しかし一方で、新規事業開発はそうはいきません。
新しい、まだ知見のない、不安定なものを徐々に作り上げていく作業を行うわけです。
その中では、様々な仮説を立てるものの、検証してみたら全然違う結果が出た、とか、
満を持してベータ版を出してみたけど顧客には全然受け入れられなかった、ということが当たり前のようにあります。
「あれだけ予算を使ってやってみたのに、全然ダメだった」
そんな結果に終わった時、予見可能性と期待値への到達を前提とした「既存事業の評価制度」を当てはめると、
このチャレンジをした人の評価は下がってしまいます。
そして、チャレンジして失敗した人の評価を下げると、今度はチャレンジすること自体に対してネガティブな感情を生み出してしまいます。
当人だけではなく他の社員にも「チャレンジするからには成功せよ」という誤ったメッセージを送ってしまうことになります。
さらに悪いことに、「確実に成功すること」を目指すモチベーションに偏っていくと、
会議の時間が増え、デスクトップリサーチの時間が増え、社内での承認取得(自分を守ることに繋がります)のための時間が増え、
いつまでも「サービス」や「顧客」と向き合えない状態が生まれます。
このような背景から、既存事業が確立している大企業ほど、
新規事業にチャレンジする社員に2つの明確なシグナルを送ることが大事になります。
1つめには、「チャレンジしたこと自体を評価する」というシグナルです。
会社が「新規事業開発やりたい奴出てこい。でも売れなかったら評価は下がるぞ!」というメッセージを出したら、優秀な人ほど参加しにくい環境になります。
最終的には、その新規事業がどれだけ収益を上げたか、その事業自体の評価は行うとしても、
まず検討段階においては新しいチャレンジに飛びこんできたこと、そこで一生懸命に試行錯誤を繰り返していることについて、会社としてポジティブな評価を与えてほしいものです。
そして2つめには、「期待通りにいかないことは失敗ではない」というシグナルです。
もう少し具体的に書きましょう。
新規事業開発においては、「期待通りにいかないこと」は当然にありうることであり、それ自体は失敗ではありません。新規事業開発のプロセスの重要な一部です。
思い通りの結果がでなくても、その意味をきちんと総括して、次のアクションやビジネスの構想自体にきちんと反映することが大事であり、場合によっては、「いろいろやってみたけど、筋が悪そうだからもう撤退しよう」という判断ができたことも、一つの成果であると言えます。
しかし、それを放置して次の行動に活かすことができなければ、ただの時間と資金の無駄遣い(=失敗)だと言えます。
このシグナルは、上役の日常的な言葉遣いから、社内コミュニティにおける紹介の在り方、会社の評価・昇進・キャリアパスなどの人事制度面の改善まで、様々な位相において発揮されます。
その具体については、長くなるのでまた回を改めて書いていきましょう。
とにもかくにも、こういった社風づくりは、なかなか成果に直結して見えない部分であるので、疎かになりがちなテーマでもあります。
しかしながら、優秀な人材を集めて一生懸命やっているのになかなかアイディアが形にならない・時間がかかる、と感じているのならば、会社が正しいシグナル(※)を出せているかどうか確認してみてはいかがでしょうか。
※ちなみに、「正しいシグナル」とは「受け取る社員が正しく(=こちらの思った通りに)受け取れるシグナル」です。