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【大企業×新規事業の難しさ⑨】経営戦略との関係?
新規事業開発チームを支援しているときに、よく頭を悩ませる問題の1つが「(全社の)経営戦略との整合」問題です。
もしかしたら経験されている人も多いのではないかと思うのですが、上層部への報告の際に「その新規事業がいかに経営戦略にマッチしているのか?」を、事業開発チームが考えて語らなければならないような状況です。
このような議論が出てくる背景には、大企業に特有のガバナンスとして、
・なぜその新規事業に投資するのかを説明できなければいけない、
あるいは、
・既存の事業を守り育てなければならない(経営へのインパクトで言えばこちらの方が規模は圧倒的に大きいでしょう)
・複数同時に走られている新規事業のポートフォリオ管理もしていかなければならない、
といった経営管理上の要求があるものと考えられます。
そういった議論の立脚点として「企業の戦略との整合」が問われるのは、大変理に適っていることだと思います。
しかし、それを誰が考えるのか、という問題は別です。
本来であれば、
経営戦略に基づいて、どんなミッションや目標を持つプロジェクトを切り出し、推進していくのかを決めるのは、最終的には経営の判断と責任によるはずです。
しかしながら、プロジェクトをスタートする時点でそのあたりの与件をきちんと整理されていないケースは意外と多いものです。
そして、プロジェクトが始まってから、現場のプロジェクトチーム側に、経営戦略との整合や、企業経営への貢献などを「自分たちで考えて説明せよ」という課題が降りてきて、冒頭のような状態に陥ります。
一方、新規事業開発チームが一番考えるべきことは、「その事業がどれだけ顧客に受け入れられ、価値を出すか?」ということです。
語弊を恐れずに言えば、これは、その事業が会社全体の戦略にどれだけマッチしているかとは、一義的には関係がありません。
現場でビジネスを立ち上げるチームとしては、顧客へのインタビューの1つでもいいので、顧客やサービスそのものに向き合う時間を少しでも確保できるほうがありがたい。
ここに、新規事業開発チームの大きなジレンマがあるように思われます。
こういった問題は、
①ボトムアップで進行した案件がある程度議論が成熟してから経営に報告するケース
②経営に近い組織(役員直下のPJチームや経営企画室など)が新規事業開発も担っていて、戦略の検討と事業の検討が未分化になりがちなケース
に多いように見受けます。
そして、①の場合は一過性なのできちんと経営が納得できるような報告ができれば問題ない場合が多いのですが、②のような組織構造の問題が関わっているケースでは、事業の検討内容が戦略に引きずられがちです。
そしてこの状況に陥ると、議論は顧客ではなく、自社や経営の方を向いたものになっていきます。
議論はだんだん遅くなり、時には答えのない神学論争に迷い込み、その新しい事業に愛着のあるメンバーほど「本当にこれは意味のある議論なんだろうか」という徒労感を感じてチームが疲弊していきます。
このような状況を避けるためには、
プロジェクト組成時点において、そのプロジェクトが会社や組織の中でどのような位置づけにあり、どのような目標や与件を持っているのかをきちんと整理しておくことが重要です。
そして、その枠組みをベースとして、現場のプロジェクトチームでは、サービスや顧客に向き合った検討を進められると、検討の進捗ははるかにスムーズになります。
我々が企業のマネジメントを支援する場合や、プロジェクトの組成から支援する場合に気を付けるポイントはまさにこのポイントです。
戦略を考える行為、その戦略に基づいてプロジェクトを組成する行為、組成されたプロジェクトの中で新規事業を立ち上げる行為は、すべてレイヤが異なっています。
これを混然と議論してしまわないように、議論を整理していくことがとても重要です。
なお、現場側の議論の中で、もっと経営に貢献できる可能性を模索することや、他の事業とのシナジーの可能性について深く研究することは、全く否定するものではありません。
大企業の強みである既存のリソースを十分に活用するためにも、現場の視点において企業の全体像を「そのビジネス目線から」きちんと捉えておくことは重要です。
あくまで、現場の新規事業チームが現場のビジネスの成功のためだけに働ける環境を提供し、それを企業の成果・価値にしていくのは経営の役割である、という関係性をきちんと整えていくことが重要であるというのが我々の考えです。