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リーンキャンバスの使い方をどう考えるか?

さて、今回のテーマは大企業に特別限った話ではないかもしれません。
先日、我々も携わっているとあるプロジェクトでリーンキャンバスの使い方のお話になりました。
リーンキャンバスを採用している企業は多く見受けますが、その使い方は企業によって千差万別。
上手に使っているなと思うケースもあれば、過去には事業計画の資料の1つとしてリーンキャンバスを埋めることが目的化しているなと感じるプロジェクトもありました。

果たして、どんな使い方をすれば、このリーンキャンバスというツールを上手く使いこなすことができるのでしょうか。

私なりの答えで言えば、「何度も」「みんなで」作ることになるのではないかと思います。
様々な経験を通じて、リーンキャンパスは「その瞬間の・ビジネスに対する認識を整理する」ための、いわば、鏡のような使い方をすると大変強力なルーツです。
一方、これを埋めようと四苦八苦して時間と労力をかけるのはもったいないなと思います。

そもそもリーンキャンバスは「そのビジネスの考えるべきポイントを、簡単に、俯瞰的に整理できる」記入様式です。
この「簡単に」というところは1つのポイントです。
旧来型の重厚長大なPDCAサイクルではなく、日々仮説検証を繰り返しながら内容をupdateしていく新規事業開発の作業においては、日常でupdateされた情報・認識・示唆をビジネスに反映していかなければなりません。

果たして今週得た検証結果は何なのか?
そこからビジネスにどんな示唆が与えられたのか?
定期的にリーンキャンバスを書いてみると、日々の活動がきちんと検討を前進させているかがわかるはずです。
もしも、前回のリーンキャンバスから何も内容が変わっていなかったとしたら、その期間の活動内容は見直した方がいいかもしれません。
(もちろん、なにも変える必要がないくらいに順調、という可能性も0ではありませんが。)

一方、みんなでつくってみる、ということも大事です。
ビジネスの検討を進めると、検討が進みタスクが増えるほど、だんだんと作業は分業化していきます。
そうすると、「みんなで同じ方向を向いて仕事をしているようで、実はちょっと認識がずれていた」というようなことも発生します。
こうしたズレは定期的にすり合わせながら進めることが大事なわけですが、その際にクイックに・誰でも簡単に記入できるリーンキャンバスのようなツールがあると、大変に役立ちます。

この点について、メンバー全員で1つのリーンキャンバスを作れば認識を合わせられるというのは非常に理解しやすいと思います。
しかし同時に、メンバー1人1人が「それぞれに書いて持ち寄る」という手法も実は有効です。

メンバーそれぞれがリーンキャンバスを書いてみると、同じビジネスを題材にしているにも関わらず書き方や内容が異なることが多発します。
その違いについて議論することで、認識のずれを矯正していくことができます。
それだけでなく、チームメンバーの誰かだけが持っていた属人知が明らかになることもあります。

同時に、私がリーンキャンバスを活用する時に気を付けていることが2つあります。
1つは、リーンキャンバスは情報の確度を捨象しているということです。
新規事業の検討をしている時、我々が扱っている情報には、大きく分けて3つのレベルの情報があります。
1つは、「明示的な事実」です。例えば、法律、日本の人口やGDPなど、既に明らかになっている情報を指します*。
(*明示的な事実に対して「実はここは違うはずだ」という、人とは違う示唆がビジネス上重要なケースは多くあります。明示的な事実だから受け入れる必要がある、というわけではありませんが、特に疑義を呈す必要がなければ「真実だ」と受け入れて問題ない情報であると言えます。)
2つ目には、「認定された事実」です。これは、プロジェクトの仮説検証や調査のプロセスを通じて、プロジェクトの中で「事実だろう」と認定された内容です。この「事実性」については、それを支える検証・証拠の強さによって「強弱」があります。プロジェクトの進展を通じて、より強い証拠によって事実性が高まることもあれば、強力な反証によって「事実ではなくなる」こともあります。
3つめが「仮説」です。まだ検証していないが「顧客はきっとこんな課題をもっているだろう」とか「ここにはこれだけの市場があるだろう」という推測の段階のものすべてです。

リーンキャンパスに書いている時、「きっとこうだろう」という仮説と、「こうだとわかっている」事実を混同したまま議論を進めてしまうと、後々になって議論の手戻りが発生してしまうことになります。
重要な情報ほど「きちんと検証された事実」なのか「これから検証すべきこと」なのかを意識しながら取り扱いたいものです。
先ほど、「前回のリーンキャンバスとなにも変わらないようなプロジェクトには意味がない」ということを書きましたが、ある「仮説が検証された」ということがあれば、それ自体はリーンキャンバスに表現されない価値である可能性はあると思います。

もう1つは、「捨てられた選択肢は全て捨象されている」ということです。
リーンキャンパスは常に、今の断面でのビジネスの検討状況を表します。
過去にどのような検討があって、どのような選択の結果として、今このような検討状況になっているのかは、(意識的にそれを書きこまない限り)表現できません。
我々も、プロジェクトの途中からテコ入れ支援に参画することも多々あるのですが、リーンキャンパスを見るときには、なぜそのような結論になってきたのか議論の流れを別途お聞きしておくことが大変に有意義だと感じます。
リーンキャンパスで今の意識を揃えることは大変大事ですが、同時にこれまでの経緯を知ることで考え方や問題意識の置き方もチューニングすることが大事だからです。

リーンキャンバスは非常にシンプルで強力なツールです。
それだけに、単純にリーンキャンバスに頼りたくなりますが、やはりツールである以上は使い方が大切だと日々実感しています。