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歴史からアイディアを紡ぐ

新しい事業を立ち上げようとするとき、間違いなくその業界についての調査や勉強をすることになるかと思います。
一般には、市場の規模や成長性といった数字面、様々なプレイヤーと業界構造、パワーバランス、慣習、技術、といった現時点のスナップショットのデータを見ることが多いように思います。

しかし、個人的に重要だと思うのは、その業界の歴史です。
それも、何がいつ起きたのか、どんなプレイヤー・商品がいつ誕生したのか、といった事象の時系列ではなく、「なぜその業界が今のようなあり様になったのか?」というストーリーを知ることが大事だと思っています。

ある決済関連の事業をされている方とお話した際に、
「昔は個人の信用情報を正しく・即時に収集することが難しかったので、クレジットカードという与信の仕組みに価値があった。近年のように、ここまでリアルタイムで決済したり口座の残金まで確認できるようになると、クレジットカードの意味合いが変わらざるを得ない」
といった話をされていました。
なぜクレジットカードという仕組みが生まれ広まったのか、その背景を知っているからこそ、現在の世界は当時と違う=クレジットの位置づけが変わる、という認識を持つことができたのだと思います。
個人的に金融・決済事業の専門家ではありませんので、この考え方の正誤はわかりませんが、このように「なぜ今、世界はそうなっているのか?」を知っておくことは、次の変化を予測したり考えたりする際のヒントになるのではないかと感じます。

ちょっと毛色の異なる話になってしまいますが、N.Y.タイムズの記者シルヴィア・ナサーの著書に『大いなる探求』という本があります。
この本は、産業革命を経て工業都市が生まれ始めた19世紀初頭のイギリスから筆を起こし、その後の2世紀の間で、誰がどのようにして経済学を発展させてきたのかを記しています。
本題ではないので内容には触れませんが、その時その時の社会問題(例えば労働者の劣悪な労働環境、不況、戦争etc.)があり、これに対して挑む様々な経済学者たち(マルクス、シュンペーター、ケインズetc.)の生い立ち・課題意識・パーソナリティが折り重なり、1つ1つの理論が形作られていったことがよくわかります。

やや乱暴なまとめになりますが、その時々の時代背景や環境があって、そこにそれぞれの個性を持った人や企業が富(利益)や名誉や真理を求めて活動した結果として、今、我々が見ることのできる現実があるのだと思います。

しかし、時代背景や環境は大きく変わります。
例えば、人口が減少基調となって若い就労者の確保が難しくなっている、といった社会的な視点。
あるいは、昔だったら写真を現像して郵便で送っていたものがスマホ1台で瞬時にできるようになった、といった技術的な視点。
または、SNS登場前は個人が「社会に対して発信を行う」ことは大きなハードルはなかったが、今となっては多くの人が自分の意見をSNSで発信することに抵抗がない、といった国民意識の視点。
これらはほんの一例にすぎず、切り口は無限にあるはずです。

そして、その業界を形作る上で大きな影響を及ぼした社会背景が変わった時、そこには大きなイノベーションのチャンスがあります。
何故なら、過去の社会背景に立脚した業界構造は、現実とそぐわなくなり、何らかの課題や新しいニーズが生まれているはずだからです。
単純な、現実に見えているニーズや課題だけに捉われず、思考を深めていくポイントは、実はこんなところにあるのではないでしょうか。