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【大企業×新規事業の難しさ⑪】可能性の探索か、資源の集中か?

新規事業開発の進め方について、企業のマネジメントの方々から度々ご相談を頂きます。
多くの場合、
新規事業は必ず成功するものではないので、たくさん打席に立ちましょう。
但し、きちんと世の中の事例や過去の反省を生かし、頭も足も使って、打率を高める工夫と努力をしましょう。
そして、「これをやる」と決めたら、事業責任者のもとに必要な時間と人材と集中力を投資しましょう。
というポイントを大事にしながらお話をしています。

ところが、このようなコミュニケーションがちょっと噛み合っていないなと思うことがあります。
それは、「新規事業開発を成功させたい」という相談のようで、実は「この新規事業を成功させたい」というような、やりたいことが既にある程度特定されているようなケースです。
予め断っておきますが、これはどちらが良い・悪いということではありません。
ただし、プロジェクトの位置づけや目的、置かれている状況がどちらなのかを自覚して、進め方を考えることは重要です。

まず、「(何でもいいから)新規事業を立ち上げたい」というような状況の相談の場合。

この段階では、1つの案件に全リソースを投入することは、あまりお勧めしません。
探索的に新規事業のアイディアを探している段階では、そこにある数多のアイディアの中から成功しそうなものを1つだけ選び取ることは極めて難しいからです。

この段階でやるべきことは、そこで生まれたたくさんのアイディアが「可能性がありそうなのか」をクイックに見極めることです。
過去記事【大企業×新規事業の難しさ⑥】アジャイルの手前で考える重要さ。でも書いた通り、そのアイディアに可能性がありそうかどうか?は、既存の市場の情報などからもある程度はクイックに判定できます。)
それだけでも「やっぱりこれは無いな」というアイディアを切り捨てることはできます。一方で、この段階では「お、これは面白そうだ!」と思うアイディアも沢山残ることでしょう。
こうして残ったアイディアについては、先入観や直感で絞りこまずに、よさそうに見える順から、個別具体的な深掘り検証に入っていけばいいと思います。
具体的に考えていけば考えていくほど、「実はその顧客課題はかなりニッチなものだった」「既に代替商品がめちゃくちゃ強い」「いろんな会社が同じアプローチの商品で失敗してる」などネガティブな情報にぶつかり、これは厳しいかも……という案件が増えてくるはずです。
こうして一般情報による検証、個別具体的な検証に耐えたものは、「きっと可能性があるのではないか?」と言えるまでに鍛えられたアイディアになっているはずです。
こうして鍛えられたアイディアは、いよいよ具体的なビジネスとして検証し作り上げていくタイミングになります。実際にモックを作ってPoCをしたり、ステークホルダーと協議したり、検証・ビジネス構築の作業がより具体的になればなるほど、やるべきことは増え、リソースも必要になります。
この段階にあるビジネスアイディアには、きちんとリソースを投下してその具体化をどんどん進めなければいけません。

一方で、たくさんのアイディアの検証をするまでもなく、「既にやりたい事業がある程度見えている」という場合もあります。

この場合、「ほかのアイディアとの比較の中で可能性の高いアイディアを残す」というフェーズは不要です。
従って、本当に投資する価値があるのか?をクイックに検証したら、
あとはその事業を成功させるために必要なリソースをきちんと投入することが重要です。

検討を前に進め、ビジネスをより具体化し、このまま検討をする価値があるか(ビジネスが成功する確度が十分に高いか)を適宜検証し、ポジティブな評価であればさらに検討を進め続ける。
その推進力が成功の肝であり、この段階でリソースを分散させるべきではありません。
ありがちなのは、明確な推進の意思があるのに、他の事業とのポートフォリオでリソースを十分に投入しない(具体的には、兼務のメンバーばかりで推進役が足りないなど)ために案件の検討が前に進まない、といったケースであり、もったいないなと感じてしまいます。


まとめましょう。
取り組むべきビジネスアイディアがまだ見えていない場合、アイディアの探索段階では、1つのアイディアにあまり集中しすぎず、様々なアイディアを広く検証していくことが必要です。
そして、一般情報からの検証、個別具体的な検証と、検証の網の目を狭めていき、「いよいよこれはいけそうだ」という案件には、きちんとテイクオフできるだけのリソースを投下していきましょう。
幅広く可能性を考える段階と、集中して前に進める段階の切り替えは、新規事業マネジメントにおいても大変に重要だと思います。